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執筆者の写真北林陽児

心理療法家が読んだ『忘却のサチコ』①

マンガ『忘却のサチコ』を2巻まで読みました。












私は知らなかったのですが、テレビ東京でドラマ化されているようですね。


さて、『忘却のサチコ』は表向きはグルメマンガと言うことになっていて、ちょっと風変わりな主人公が繰り広げるドタバタコメディの中で、美味しい物を食べて心を癒す的な感じの物語です。



冒頭で主人公のサチコは、結婚式の途中で新郎に逃げられてしまいます。


以来、その彼氏のことばかりを考えてしまうのですが、美味しいものを食べている時だけは、彼氏のことを忘れて居られるということに気づいて、「忘却美食」の道へと入っていくのです。


一般的には、ちょっと面白そうな話に聞こえるかもしれませんが、心理療法家からしてみると、これはかなり危険な匂いのするオープニング・・・に見えてしまうのです。


これってつまり、心の傷を受けたことをきっかけにして、過食が始まっていく摂食障害の話と解釈できてしまうんですね・・・。まだ2巻までしか読んでませんけど。


もちろん、コメディ調のマンガなので、深刻な問題にはならないと思うっていても、これからどうなっていってしまうのだろうかと思います。


特に、第2巻の最後のほうでは、香川で開かれる従妹の結婚式に出席しようとするのですが、「結婚おめでとう」というお祝いの挨拶を練習しても、「結婚」という言葉が言えず「けっ」と発音することしかできないのです。


そして、そういう心の動揺を抑えるために、うどん屋さんを5軒も6軒もハシゴすることでお祝いの言葉を喋れるように頑張るという話でした。


これはもう摂食障害の物語ですね・・・。


確かに、第一巻で、「こうしてサチコは忘却美食の道へと入っていくが、その道の厳しさをまだ知らない」的に語られているんですよね。



ただ、コメディマンガですし、エンターテイメントですから、きちんと救いが用意されていました。


うどん屋を何軒もハシゴしても「結婚」というワードを言うことができない状況に対して、サチコは最終的に「彼氏に逃げられて傷ついている自分に従妹を祝福する資格なんてないんだ」と気づいて、結婚式の参加を諦めるのです。


そうすると、気持ちが楽になって、最終的には結婚式に参加できて、お祝いの言葉も述べることができました。


これは、「傷ついていること」や「傷ついている自分」に気づき、「本当は出席したくない自分」を受容することによって、苦しみから解放されるという自己受容の現象です。


そしてそういう気持ちを受容した途端に、苦しみから解放されて、出席できるコンディションになるという・・・心の仕組みです。


抱えている心の苦しみを美食で忘却するというのは、確かに可能です。


しかし、根本的な解決は、本当の問題である心の痛みと向き合うことなんだよ、というメッセージの込められた話でした。


私自身も長年に渡って摂食障害、過食嘔吐をしてきた。そういう経験からいうと、このマンガはそういう当事者にこそ読んで欲しいなという感じがします。


コメディなので悲壮感がないのですが、当事者であれば主人公の心情をよく理解できるでしょう。と、同時に主人公の心情理解は、自分自身の心情理解でもあります。


自分自身の心情理解とは、自己受容のことでもあって、心を癒す効果があります。



それでは今日はこんなところで・・・




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