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執筆者の写真北林陽児

「現実の親」と「心の中の親像」

心の問題を解決する仕事をしていると、多種多様な悩みごとをお聞きすることになります。


その中でも、いちばん多くの人が悩まれているのが、親との関係のような気がします。


悩みごとの表面的な部分は多種多様なのですが、その根底には親との関係があることがとても多いです。


これは私自身にも該当することでした。


マンガ『5つの魔法』でも描かれていますが、父親との関係は常に私の悩みごとの中心にあって、父親への怒りを常に抱えていたと思います。


子供は、現実の親とのかかわりの中で徐々に成長してゆき、徐々に現実の親からは離れていくと同時に、自分の心の中に親の像を作り上げて、その心の中の親とともに生きていくそうです。


そう言われてみると、私も大学で秋田を離れて遠く関西まで行って以降、現実の両親に会うことはほとんどなくなりましたが、それでも親は私の心の中に住んでいたように思います。


私は、その大学時代に色んなことがうまくいかなくなったのですが、その頃から心の中から父親の厳しい声が聞こえてきて、その声に毎日のように叱責されてしまって、苦しみの深みへとハマっていった記憶があります。


実は、その心の中の父親像や父の声は、高校までの間の関わりの中で心の中に作られた虚像にすぎないのですが、それでも非常に強力な影響力を持って私に介入されているような感じがしていました。


ある時、その現実の父親が、仕事か何かで関西まで来るということになって会うことになりました。


その日まで「ああ、絶対に怒られる」と思って暗い気持ちで過ごしてとても辛かったのですが、いざ実際に会ってみると父は上機嫌で、食事に連れて行ってくれたりしました。


当時は、心の仕組みが良く分かっていなくて混乱したのですが、叱責してくる「心の中の父親像」と「現実の父親」とは別のもので、「現実の父親」は私が学校に行けていなくて単位もとれていないことも知りもしないわけですから上機嫌なのです。


当時、その上機嫌の父親に会った私は、怒られなくて安心したような、行き詰まっているという秘密を抱えてしまった嫌悪感やらで、混乱してしまったような感じでした。


ここで私が言いたいことは、「現実の親」と「心の中の親像」とは違うものだということです。


「現実の親」は日々年を取っていくし、自分はどんどん成長していって現実の関係性は変化していっています。


しかしその一方で、多くの場合「心の中の親像」は10代くらいの時に作られて、親が最も強く、自分はまだ幼く弱かった時代に作られたもののままです。


現在でも現実の親が結構ぶっとんでいてヤバいというケースもあることはありますが、多くの現在の苦しみの原因は「現実の親」というよりは「心の中の親像」であるということは、実はとても多いと思われます。


親との関係の問題について、このように見てくると、この問題の解決方法が見えてきます。


それは、「心の中の親像」こそ和解すべき相手であって、「現実の親」ではないということです。


もはや年取って弱くなった「現在の親」と話し合ったり、責めたり、あるいは謝ってもらったとしても、問題が解決される可能性は薄いと思われます。


そうではなくて、「自分の心の中に住んでいる親像」と向き合って和解することができれば、その時問題は「劇的に」解決されます。


まあ、とは言うものの、それが嫌で嫌でしょうがないわけです。


自分の心と向き合うだけだって怖いのに、長年苦しめられた「心の中の親像」と向き合うなんて、それは自分が長年最も避けてきた、最も恐ろしいことなのです。


私は、それをやろうとするとどうしても気持ち悪くなって、取り組むまでにずいぶん時間がかかりました。


あるいは、無理に挑戦すると眠りに落ちてしまって、気づけば1時間寝ていた・・・みたいなこともありました。


それでも、そういう中核的な問題ではなく、もっと周辺的な問題を解決していくうちに、だんだん準備ができてきて父親像と向き合えるような気がしてきます。


この周辺的な問題を解決していくというのは、いっけん遠回りなのですが、とても大切なことだなと思います。


また、実際のセッションにおいては、流れに身を任せることで、その時クライエントが無理なく取り組むことのできる周辺的な問題が浮かび上がってきます。


まあ、その流れに身を任せるというのが、クライエントと自分自身と運命とを信じるということなのかなと思っています。


2 Comments

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Guest
Aug 31, 2023
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「心の中の親像」は、自分の思い込みも、あるでしょう

辛い思いをした事が、誇張、固定されているかもしれません

1番近しい人。心の問題の発端になっている事が、私にもあります

幼い頃、思春期。親の気持ちに応えたいと思うけれど、どうしても互いに理解が出来ない事もありました

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北林陽児
北林陽児
Sep 01, 2023
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コメントありがとうございます。そうですね。「心の中の親像」が現実の親とはちょっと違うというのは、変なことではありません。大切なのは、コメントに書かれているようなことに気づいていくことと思います。そのようにして自分の心に気づいていくことによって、自分自身も「心の中の親像」も変化していって、楽になっていきますよ。

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